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ルパン・エチュード考察 クラリスはなぜラウールの特別になったのか

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原作との関係性の概要は上記のブログ記事にまとめているのでこちらでは原作には一切触れずにルパン・エチュードそのものの考察をして行きたい。

第2巻、カリオストロ伯爵夫人編の冒頭で、ラウール・ダンドレジークラリス・デティーグと恋に落ちる。
自分はここで「ん?」と感じた。
ラウールが特定の誰かを愛する…?
ヒトでも猫でも犬でも虎でもなんでも平等に愛するラウールが、誰か1人を特別に愛するだって?

クラリスの「力」って本当にクラリスの能力なのか?
ラウールの安心感とか信頼感とか思い入れとかそういう精神状態が「悪意」をブロックしてるって可能性はないかな

作中でエリクはこう推測する、つまりラウールがクラリスを愛したからこそアルセーヌは表に出られなくなったのではないか、と。
(それに対してアルセーヌは「怖いことを言うね」と返すのだが、それはそうだろう。ラウールがエリクに懐けば懐くほど、親友の前に自分が出られなくなる可能性があるのだから)
しかし自分は逆ではないかと思う。
アルセーヌの意識を落とすほどの力をクラリスが持っているからこそラウールはクラリスを愛したのだ。
これはラウールとクラリスの描写ではなく、アルセーヌとジョジーヌの描写からそう推察した。
ジョジーヌを間近で見たアルセーヌはこう言う、

こんなこと今までなかったんだ
初めてなんだ
すごく新鮮な気持ちだ……!
ラウールの気配をまるで感じない……!
ラウールの裏にいる時みたいな無感覚じゃない
表にいるとき特有のすべてがむき出しなフルボリュームでもない
(中略)
彼女はぼくの「クラリス」だ……!

異常状態から初めての正常状態になったアルセーヌは、ジョジーヌを特別だと感じ、たちまちのうちに愛するようになる。
それと同じことがラウールでも起こったのではないだろうか。
いつごろ人格が分裂したのか定かではないが、アルセーヌが初めて外に出られた年齢(6歳以下)を考えるならば、物心がつく以前から、もしかすると生まれた直後から2つの精神が1つの肉体に宿っていたのかもしれない。
常に裏にいることを強いられていた側は裏でも意識を保っていられるが、常に表にいた側は裏では意識を浮上できない。
暗闇で過ごしたモノは夜目が利くが、そうでないモノには何も見えない。
これがアルセーヌとラウールの非対称性の原因だろう。
次に表に出ている状態を考えてみる。
アルセーヌが表に出ている間ラウールは落ちているのだが、それでもジョジーヌを見た時のアルセーヌは言う、「ラウールの気配をまるで感じない」と。ではラウールは?
ラウールが表にいる場合、ほとんど常にアルセーヌは落ちていない。
それにも関わらずラウールはアルセーヌの気配を感じずに生きていた。いや、本当にそうだろうか。
常に誰かから見られている人間は、無意識のうちに感覚のボリュームを引き下げてしまうのではないだろうか。
つまり、ラウールのあの独特な性格は、”常に誰かから見られているプレッシャーを緩和するため身につけざるを得なかった鈍感さの結果”なのではないだろうか。
そう考えるならば、アルセーヌの意識を遮断するリソースを割かずに済む状態=クラリスがいる状態をラウールが心地いいと感じるのも自然な流れだ。
アルセーヌが歓喜したように、ラウールも歓喜したのだろう。
もしかするとその歓喜はアルセーヌが感じたものよりも大きかったかもしれない。

2022年7月15日追記。

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